出来心(初女装)



いつもなら殺風景でごく普通な一人暮らしの俺の部屋に、姉が遊びに来てくれて少しだけ華やかになった気がした。
でも、酒癖が悪くて久しぶりに二人で飲んだときはベタベタされて鬱陶しかった。
それでも、やっぱり俺のことを心配してたまに気まぐれで遊びに来てくれる姉には感謝している。

「それじゃぁ、また来るから元気でねぇ〜!」

『あぁ、姉ちゃんこそ元気でな。』

そう言うと小さめのキャリーをガラガラと引きながら、俺が住んでいるマンションの前の道を駅に向かって歩いていった。

「はぁ…」

姉が居てくれた少しの間は鬱陶しく感じることもあったけど、やっぱり男の一人暮らしで何の華もないつまらない毎日よりは楽しいわけで、姉が帰ってしまったと言うことは、またつまらない生活に戻るわけだ。

『さぁて、洗濯物回して買い物でも行くか。』

俺はマンションのオートロック式の扉を開けて、自分の家へ戻った。




『めんどくせぇ…』

姉が居てくれた間、俺は大学に提出するレポートをやっていたから、家事は全て姉にやってもらっていて、久しぶりに全ての家事を自分でやらなくてはならない事が面倒くさくなっていた。

面倒くさいとは言いながらも、几帳面なところがあって、ちゃんとネットに入れて洗うものはネットに入れるし、色移りしそうなものは別に洗濯する。
俺は一人暮らしだから毎日洗濯しなきゃならないほど溜まることはないけど、今まで母親が毎日こうして洗濯だけでなく家事をしてくれていたことに今更ありがたみがわいてくる。

そんなことを思いながら洗濯物を分けていると、見慣れない洋服が洗濯籠に入っていたのを見つけた。

『これって、姉ちゃんのだよな?』

黒地にピンクのチェックが入ったワンピースは、彼女のいない俺が持っているはずがないし、もし持っていたとしたら俺は変態だ…。

『まったく…』

溜息をつきながらズボンに入れた携帯を取り出して、姉に電話をかけた。

『もしもし姉ちゃん?洋服忘れてるけどどうする?』

━え?どんなやつ?━

『えぇと、黒地にピンクのチェックがはいってるワンピース』

━あぁ、別に急いで取りに帰らなくてもいいや!━

『分った。これって洗濯しておいたほうがいいの?』

━お願いしてもいい?━

『分った。じゃぁ洗濯しておくから今度来た時に忘れずに持って帰ってね』

━うん!ありがとう!じゃぁ電車着たから切るね!━

『あのさ…』

ブチッ…ツーツーツー

はぁ…

要件を済ませるとすぐに電話が切られてしまった。
まだ話したいことがあったんだけど…。

『まぁいっか』

俺は洗濯物の続きをしようと籠に入った洋服をわけていく。

『…っ!?』

洋服をあらかた分けたところで目に入ったものは…

『これって…』

目に入ったものを手にとってみる。

『パンツ…!』

流石に姉のものだと思うとムラムラしないけど、男の俺に女物のパンツはちょっと困る。

『何てもの忘れてんだよあいつは…』

女物のパンツを目の前にして、ちょっと緊張しながらさっき見つけた姉の洋服の方へ置いた。

自分の洋服を洗濯機に放り込んでスイッチを入れ、買い物に行く準備をするために部屋に戻り適当に洋服を取り出す。

『どこに買い物行くかな』

独り言をいいながらてきぱきと着替えていく。
別にたいしたところに行くわけじゃないし、いつもどうりに適当な格好で出かけようと思っていた。

思っていたけど…。

『何か面白いことしたいよなぁ…』

今日は友達との約束をしていたわけじゃないし、いきなり遊ぼうと連絡したって急な誘いじゃなかなか相手は見つかりそうもない。
大学に入ったら勉強しつつも一人暮らしをして遊び放題だとか思ってた俺の夢はどこにいったんだ!!

出かける準備を整えて玄関に向かおうとすると、さっき見つけた姉の洋服が洗面所から見えた。

『……流石に…ない…よな?』

姉の洋服を見て思ったこと。
それは…

【女装をして出かけてみる】

面白そうだとは思ったけど、いくら細身だとはいっても俺は男だ。
それに、ワンピースじゃ脛毛が見える。
剃刀でそっちゃえばいいんだろうけど、女に比べたら筋肉質だしバレる。
それから、胸もないし肩幅だって広い。
胸は適当なもの詰め込んで何とかできたとしても、肩幅は流石にどうにもならないだろ…。

こうやって考えてみると、何だか着てみたいけど着たらダメだって言い聞かせてる感じだな。

『まぁいっか…』

普通にいつもと同じ生活に刺激を足してみるのも悪くはないんじゃないか?
それに、洋服を忘れていった姉が悪い!

玄関から洗面所へ戻り、姉の洋服を手に取って部屋へ入る。

『着れるかな…』

部屋にある姿見の前でワンピースを体に当ててみる。

若干きつそうに見えるけど、着て見なきゃわからないだろ。

俺は少し緊張しながらワンピースを着てみた。



『着れちゃったよ』

姿見の前で合わせたときはきつそうに見えていたけど、着てみるときついどころかぴったりだった。
何だか楽しくなってきて、姿見の前でクルクル回ってみる。

『よし!乗ってきた!』

早速俺は風呂場へ行って髭剃りようの剃刀で脛毛を剃って、髭は青く残ったら嫌だから毛抜きで抜くことにした。
化粧は流石に出来ないけど、髪の毛は長めだしワックスつけなきゃなんとかなるだろう。
生足を晒すのはまずいかと思ったけど、ブーツを履いてしまえば隠れる。
胸はちょっと無理やりな感じもあるけど、靴下で何とかする。

さっきまでの俺はどこに行ったのかと思うほど、どんどん気持ちが乗ってくる。

全ての準備が終わって、誰か知ってる人にバレたらどうしようと思うと緊張してくるけど、ここまできたら出かけてみようと決心して玄関へ向かう。

『だ…大丈夫…だ…頑張れ俺!!』

何が大丈夫なのか自分でも良く分らないけど、兎に角勇気を出して玄関の扉を開く。

いつも見ているはずの玄関の前の廊下なのに、何故か今までとは違うように感じる。

まだ緊張していて少し俯き加減だけど、何とかマンションの正面玄関も抜けられた。

『き…緊張するな…』

何でかわからないけど、自然といつもより声を高くしている自分が少し笑える。

とりあえず近所の人に見つかるのだけは避けたくて、急ぎ足で駅の方へ歩いていった。





駅に着くまで俺のことを知っている人にばったり会うことはなかったけど、いつもは人の目なんて気にすることはないのに、女装をしている所為で周りの人にジロジロ見られている感じがする。
流石に化粧をしないでこの格好はまずかったか…。
でも、今更だと思ってなるべく視線を気にしないように適当に店に入った。

「いらっしゃいませ」

俺が入った店はいつも洋服を買うときに来る店とは別の店で、店員も俺のことは知らないはずだから大丈夫だろうとは思うけど、やっぱり男ってバレないか緊張する。
もしバレたら変質者ってことで警察に捕まるかもしれない…。

そう考えると怖いな…。

少し不安になってきたけど、挙動不審になってたら余計に怪しまれると思って、なるべく自然に見えるように行動した。

いつも行く店とは違うから置いてある洋服も当たり前だけど違う。
何かいいものはないかと物色していると、俺の横から店員に声をかけられた。

「お客様」

『うぁっ!?』

いきなり声をかけられて吃驚して変な声が出た。

これは…

この状況は…

女装をしている事がバレて警察に…

そんな不安なことを思っていると、俺が言われるであろうと思っていた言葉とは全く違う言葉をかけられた。

「お客様、もしかして恋人にプレゼントとかですか?」


『え?』

思ってもみなかった言葉を言われて、間抜けな声が出てしまった。

「先ほどから一生懸命にお洋服をお探ししているように見えたので」

『そ…そそそうなんですよ!今日彼氏の誕生日で前にここのお店の洋服が欲しいって言ってたから!!!!!』

少し俯きながら言ったのはちょっと怪しかったかもしれないけど、男だってバレてないんだから良かった!

「そうでしたか、ご希望があれば一緒にお探ししましょうか?」

普段の格好をしていれば喜んでお願いしたい。
だけど、今は早くこの店員から離れたい。

『だ、大丈夫です!自分で選びます!わざわざありがとうございます。』

「そうですか。何かありましたら遠慮なくお声をかけてくださいね。」

ニコッと営業スマイルを俺にむけると、店員は俺から離れていった。

『はぁ…』

とりあえず危機的状況から脱出出来たことに安心して溜息をはいた。

本当にバレたんじゃないかとおもって物凄く緊張していたから心臓がバクバクいっている。

『か…帰ろう…』

さっきみたいな事がまたあるかもしれないと思うと心臓がおかしくなりそうだから、帰ることにする。




帰り道でも知ってる人に会わないかとか、周りの視線が気になったりとか本当にドキドキしたけど、何とか無事に何事もなく家についた。

『やべっ!洗濯物干さなきゃ!!!』

既に洗濯機は止まっていて、少し出歩くだけのつもりだったのに軽く1時間はたっていた。

洗濯機から洗い終わった洗濯物を籠に移して持ち上げる。

『おっと!』

洗濯籠を持ち上げようとしたら、籠の端に引っかかっていた靴下が床に落ちた。

足元に落ちた靴下を拾おうとして腰をかがめて拾おうとした俺の目にまだ洗濯していなかった姉のパンツが目に入った。

『…』

流石にこれに手を出したら本当に俺は変態になってしまうと思ったけど、別に変な感情があってするんじゃない!
それに、女装してるんだしパンツだって女物をはいていたほうが…
だから…

自分に言い訳をして、落ちた靴下ではなく目に入ったパンツを手に取った。

『だ…誰も見てない…よな…』

ゴクッとおとが聞こえるくらいに唾を飲んで、思い切ってパンツに足を通した。

これを上まで上げれば…

ガチャっ━

『!?』

いきなり玄関を開ける音が聞こえて固まったように体が動かなくなった。

「雅紀ー?家の鍵忘れちゃったみたいなんだけど!」

頭が混乱してしまってどうしたらいいのか分らない。

姉が忘れていった女物の洋服を着て、膝の辺りまで上げたままのパンツ…

どうしようどうしよう!

頭の中で騒いでみても、体は未だに固まったまま動かない。
その間に洗面所に近づいてくる姉の足音。

「雅紀ー?居ないの?」

ガチャ━

洗面所の扉をあける音がやけにスローに聞こえる。

俺は…
終わりだ…

「まさ…きっ!?」

『ひ…ひぃぃぃぃぃいい!!!!』


俺は意味が分らない叫び声を発してその場にうずくまった。




「全く、吃驚したわよ!」

『そ!それは俺だって同じだよ!!』

何とか落ち着いた俺と姉はとりあえず部屋に戻った。

「で?何で私の洋服なんて着てたのよ?しかもパンツまで」

『そ…それは…』

「まぁいいけどね」

『いいのかよ…』

見つけたときは相当混乱していた姉だけど、今は別に何とも思っていないみたいだ。

「あんたさ、何気に女物の洋服似合ってたよ!」

『そ…そりゃどうも…』

喜んでいいのかどうなのかよくわからないけど…。

「雅紀は綺麗な顔してるから、女物の着てても男って分らないかもね?」

『そ…そうかな…』

もっと怒ったり幻滅したりするのかと思ってたのに、姉の顔が何だか楽しそうな顔に見えるのは俺だけだろうか?

「ねぇ雅紀!」

『な!何!?』

いきなり姉の顔が俺の顔の近くによってきてジロジロと顔を見られた。

「ちょっと化粧してみようか!」

『な!?何言ってんの!?』

姉は抵抗する俺を気にもしないで「いいじゃんいいじゃん」と言って鞄から化粧ポーチを取り出した。

「今度は私が化粧してあげるから、一緒に出かけようね!」

物凄く楽しそうな姉の顔が、俺には悪魔にしか見えなかった。



END

女装娘×NH×NAVI☆

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