甘すぎるキス


―2月14日―

毎年この日の俺は憂鬱になる。

自分で言うのもなんだけど、まぁまぁモテる俺は今年も例外なくクラスの女子から大量のチョコレートをもらった。

ロッカーにしまっていた大量のチョコレートを鞄に入れ直す。

『こんなにもらったって、食いきれないっつの…』

鞄に入れなおしてみると、チャックがしまらなくなった。

俺に好意を寄せてくれているのは嬉しいと思う。

でも、流石にこれだけもらうとホワイトデーのお返しの数が半端ない。

別にお返しなんてしなくてもいいとは思けど、もらってばかりは何となく悪い気がする。

そんなわけで、今年も無駄な出費がかさむ事に憂鬱になるわけだ。

まぁ、それだけが憂鬱になる原因ではないのだけれど――


俺は大量のチョコレートが入った鞄を肩にかけ、さっさと家に帰ろうと下駄箱へ向かった。




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下駄箱へ向かう廊下を歩いている間にも、何人かの知らない女子に呼び止められた。

"好き"だとか"付き合ってほしい"だとか言われたけど、流石に何も知らない相手と付き合うことなんて出来るわけがない。

せっかく告白をしてくれたのに申し訳ないけど、なるべく傷付けないようにやんわりと断った。

やっぱり告白をされて断るのも辛い物がある。

『俺なんかの何がいいんだか…』

ため息を吐いて下駄箱がある廊下の角を曲がると、よく知った奴が俺の下駄箱の扉を開けてコソコソと何かしていた。

『千尋(ちひろ)、何してんだ?』

「ひゃっ!?な、何でもない!」

声をかけるとビクッと肩を跳ねさせて、手に持っていた何かを後ろに隠した。

『今何か隠しただろ』

「えっ!?かか隠してない!何にも隠してないよ!」

あからさまに動揺している千尋は俺から視線を逸らし、目を泳がせている。

分かり安すぎる千尋の反応に少し笑いをこぼし、素早く千尋の背中へと手を伸ばした。

『嘘つけ!』

「あっ!!」

素早く延ばした手で一瞬の内に後ろに隠していた物を奪い取る。

「か、返してよ!」

『やだね』

奪い取った物を取り替えそうと、高く上にあげた俺の手を目掛けて思い切りジャンプをするが、小柄な千尋の手が届くはずがない。

いったい何を隠していたのかと奪い取った物を見てみると、俺宛の手紙だった。

『へぇー、今時ラブレターなんて珍しいな』

「読んじゃダメー!」

必死になって取り替えそうとしている千尋を後目に、可愛い封筒を開けて中に入っている手紙を取り出す。

「返せ!返せぇ!」

『何でだよ、これ俺のだろ?』

千尋は小さな身体をぴょんぴょんと跳び跳ねさせて、俺から手紙を取り返そうとしている。

少し力を入れて握ったら折れてしまいそうな細い腕。

色素の薄い瞳に長い睫毛。

頭の両側で結ばれた栗色の髪の毛は、飛び跳ねるたびにぴょこぴょことして、耳の垂れたウサギに見える。

何とも言えない愛らしさだ。

それに、今日告白された女子にも負けない位可愛いと思う。

「いいから返してよ!」

『俺のものなのに返せってのはおかしいだろ…』

「浩(こう)ちゃんの物は僕の物なんだぁ!」

目の前にいる女子用の制服を着て、自分の事を"僕"と呼ぶこいつは所謂"僕っ子"と呼ばれる女子ではない。

何故か女子用の制服を着てはいるが、こいつはれっきとした"男"だ。

「浩ちゃん!!!」

『ったく、うっせぇな…』

何でそんなにこの手紙を読ませたくないのだろうか。

何故こんなに必死になっているのかは分からないが、これ以上騒がれると面倒臭いと思った俺は、千尋に"俺宛"の手紙を返してやった。

『ほら、もう騒ぐなよ』

「浩ちゃんがさっさと返してくれないからでしょ!」

『はぁ…』

手紙を取り返した千尋は文句を言いながら、さっさとそれを鞄の中にしまいこみ、満足げな顔を俺に向ける。

しかし、俺の肩にかかった鞄が目に入った瞬間、満足げだった顔が急に不機嫌な表情に変わった。

『どうした、急にそんな顔して?』

「別に…何でもないし…」

何でもないと言う割りに、俺の鞄を物凄い剣幕で睨みつけている。

もしかして、俺がチョコを沢山もらえていることにやきもちでもやいているのだろうか。

俺は閉まりきらない鞄の中から一つチョコを取り出し、千尋の前に差し出した。

『ほら、やるよ』

「…いらない」

せっかく人がチョコをやると言っているのに、千尋は顔をぷいっと背けた。

『チョコが欲しいんだろ?ほら、これや――』

「いらないって言ってるの!!」

いきなり大きな声で叫んだ千尋は、手に持たせようとしていたチョコを床に叩き落とし、顔を俯かせ床を睨んだ。

『千尋?』

いきなりどうしたのかと驚きながらも、床を睨み続けている千尋に呼びかける。

しかし、何度呼びかけても返事は無い。

放課後の静かな下駄箱に、鼻をすする音だけが聞こえた。




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いったいどれくらいの時間がたったのだろうか。

完全下校時間を知らせるチャイムが校内に響き渡る。

未だに俯いたままの千尋が肩を震わせはじめた。

『寒いのか?』

まだ二月の夕方は寒い。

カーディガンを着てはいるが、スカートを履いているんだから俺よりは寒いはずだ。

俺は鼻をすすって震えている千尋に、自分が巻いていたマフラーを外し首に巻いてやろうとした。

『そんな格好してっから寒いん――』

「何も、分かってないんだね…」

言葉を遮るようにそう言うと、マフラーを巻いてやろうとした俺の手を払い拒んだ。

いったい俺が何を分かっていないというのだろうか。

『何の事だよ…』

俺の言葉を聞いた瞬間顔を上げた千尋の瞳から涙が零れ落ちた。

「浩ちゃんはモテモテだもんね!!」

『お、おい…千尋!?』

"よかったね"と涙を流したまま言い捨て、靴を履きかえると千尋は一人下駄箱から走り去っていった。

『何だってんだよ!』

泣いている奴を放っておけるわけも無く、急いでチョコを拾い、下駄箱から靴を取り出し走り去っていった千尋の後を追った。




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走って追いかけていたが、いくら女の制服を着ているとはいえ、やはり千尋も男だ。

走る足が速くて途中で見失ってしまった。

『ったく、何処いったんだよ…』

都会ではない街は街頭もちらほらとしかない。

しかも、天気が悪くなってきた所為で月が雲に隠れてしまい余計に暗い。

一応携帯に電話を掛けてみたが、出てくれるわけも無く呼び出し音が鳴り続けるだけだった。

もう家に帰っているかもしれないと思い、家に電話を掛けてみても誰も出ない。

"何も分かってない"

さっき千尋が言った言葉が頭の中を巡る。

『俺が何を分かってないってんだよ…』

はぁっと吐き出さした溜息は寒さの所為で真っ白だ。

もう放っておこうかと思ったとき、真っ黒な空とは対照的な真っ白な物が降って来た。

『雪、か…』

ポケットにしまっていた手を出し広げてみる。

掌に載った雪は体温の熱で直ぐに解けて水になってしまった。

このまま放っておいたら、雪に濡れて風邪を引いてしまうだろう。

そう思うと探すのを止めようと立ち止まっていた足が勝手に走り出していた。




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降り出した雪は既に少し積もり始めている。

早く探し出さなければと千尋が行きそうな場所を探しまわった。

しかし、何処を探しても見つからない。

他に千尋が行きそうな場所が思い当たらず途方に暮れて歩いていると、少し離れた場所にある小さな公園が目に入った。

こんな所にいるわけないだろうと思いながらも公園の中へ入る。

あまり広くない公園は遊具も少ない。

入り口から少し離れたところにあるブランコに座っている奴が見えて思わず駆け寄った。

『千尋!!』

「っ!?」

ブランコに駆け寄り名前を呼ぶと、俯いたままびくりと肩を跳ねさせた。

『お前びしょびしょじゃねぇか!!』

「…」

やっと見つけた千尋は全身びしょ濡れで、かたかたと震えている。

このまま放っておいたら確実に風邪を引いてしまうだろう。

また拒まれる事を覚悟して、少しでも温めてやろうとマフラーを巻いてやった。

『ほら、風邪引く前に帰るぞ!』

「…い…いや、だ…」

まだ何か怒っているのか、寒さで震える唇からは否定の言葉と白い息が吐かれる。

何をそんなに意地を張っているのかと言いたくなったが、今はそんな事を言っている場合ではない。

兎に角風邪を引く前に何とかしようと、俺は動こうとしない千尋の腕を掴み引っ張った。

「は、放し、てっ!」

『早く帰って温まらないとマジで風邪引くっつの!!』

「放して、ってばっ!」

掴んだ千尋の腕は冷え切っていて、氷のように冷たい。

かじかんで思うように動かせない手で掴まれた腕を離そうと必死になって抵抗しているが、俺も離すまいと手に力を入れる。

「い、痛、いよ!」

『引きずってでも連れて帰るからな!』

「放して、よ!も、もう…放っと、いてよ!」

『煩い!!』

こんな雪が降っている寒空の下で何時間も探し回った所為で、俺だってびしょ濡れで寒い。

しかも見つけた千尋は冷え切った体で風邪を引きそうなのに帰らないと駄々をこねる。

―何も分かってないのは…

もう、限界だ。

俺は抵抗を止めない千尋の腕を今までに無い位の力で引っ張った。

「痛いっ!放してっ…放せっ!!!」

『いい加減にしろ!!!!』

「っ!?」

怒鳴られて吃驚したのか、一瞬抵抗をやめた千尋の冷え切った体を思い切り抱きしめた。

『さっきから、何なんだよお前……』

「…」

『いったい俺は…どうしたらいいんだよ…』

もう分けが分からない。

いきなり怒り出したり、泣き出したり。

こんなに冷え切って震えているのに、帰りたくないと駄々を捏ねたり。

何で怒っているのか分からない。

何で泣き出したのかも分からない。

確かに俺は千尋の事を何も分かってないのかもしれない。

『どう、したら…いいんだよ…』

「こう、ちゃん…?」

男のくせに情けないと思われるかもしれない。

それでも何故か俺の目頭は熱くなっていく。

『お前は…千尋は俺に、どうして欲しいんだよ…』

「…」

『確かに…俺はお前の事、分かってのかもしれない…でも―』

「…」

―分かってないのは

―お前の方だ

『……千尋…』

「っ!?」

俺は我慢できなくなって、千尋の唇に自分の唇を重ねた。

いきなりの事で驚く事しか出来ないで居る千尋は抵抗もせず目を見開いている。

しかし、何度も角度を変えながらキスを繰り返しているうちに千尋は目を瞑った。

「…ん…はぁ……」

『千尋…』

「こう、ちゃ…はぁ…あつ、い……」

しばらく長いキスをしていると、雪が降ってい濡れているのに熱いと言い出した。

体はカタカタと震えている。

顔を見てみると目は潤んでいて顔も赤い。

まさかと思い、千尋の額に手を当ててみるとやはり熱かった。

『おい、大丈夫か?』

「こう…ちゃ………」

『千尋!?』

いきなりガクッと千尋の足から力が抜け、俺は慌てて倒れそうになった体を支える。

「はぁ、はぁ…っはぁ…」

『千尋!しっかりしろ!』

「はぁ、はぁ、はぁ…」

『くそっ!』

苦しそうに息をする千尋を抱きかかえ、急いで家に向かった。




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「ん…」

『千尋…?』

家についてベッドに寝かせてから1時間程経った時、千尋が目を覚ました。

『大丈夫か?』

「…あ、れ…浩ちゃん?」

まだ寝ぼけているのか、それとも熱の所為なのか自分の置かれている状況が分かっていない様子であたりをキョロキョロとしている。

俺は千尋の額に乗せていたタオルを取り、用意しておいた桶で冷やしなおす。

「何で僕…ここに…?」

『寒い中びしょ濡れで長時間外に居た所為で熱出して倒れたんだよ』

「……ごめん…」

申し訳なさそうに言う千尋の瞳は熱の所為で潤んでいる。

こんな時に不謹慎だとは思うが、汗に濡れた首筋や髪の毛が張り付いている顔が、やけに色っぽく見えてしまう。

「浩ちゃん?」

『ん?』

「そんなにじっと見つめて、どうしたの?」

『あ、いや、えっと……何でもねぇよ』

疑うような目つきで睨まれたが"色っぽくて見とれてた"なんて口が裂けても言えない。

俺は誤魔化すように冷やしなおしたタオルを額に置いてやる。

「ひゃっ!」

『!?』

額にタオルを乗せると千尋が小さく悲鳴をあげた。

『わ、悪りぃ、冷たかったか?』

「んん、大丈夫」

小さいとは言え、悲鳴を上げられれば吃驚する。

でも、そんな反応さえも可愛く思えてしまう俺は末期かもしれない。

とりあえず変な気を起こさないように落ち着こうと、机に置いておいたマグカップの中身に口を付る。

すると、千尋はマグカップに視線を向けた。

「それなに?」

『これか?』

「うん」

『ホットチョコレートとかいうやつ』

千尋は"ふぅん"と言った後、物欲しそうな目で俺を見てきた。

『どうした?』

「僕ものど渇いちゃった」

そう言われて、俺は持っていたマグカップを机に置き、千尋の体を支えながら上半身を起こしてやる。

『ほら』

「えぇ…」

『えぇってなんだよ』

机に置いておいたペットボトルの水を渡すと残念そうな反応をされた。

「水じゃなくて、僕もそれ飲みたいっ!」

『喉渇いたなら水のがいいんじゃないか?』

寝起きで急にこんな甘ったるいものを飲んだら気分が悪くなるんじゃないだろうか。

どうしようかと考えていると、渡したペットボトルをベッドの端に置き、机の上に置いたマグカップを指差した。

「ねぇ、それちょうだい」

『んー…』

「ダメ?」

首を小さくかしげて強請るような仕草をしてくる。

正直あまり飲ませたくないのに、そんな可愛い仕草をされたらあげたくなってきてしまう。

「浩ちゃん?」

『んー…少しくらい大丈夫か?』

俺の言葉を聞くと"やったぁ"と嬉しそうに笑顔になった。

机に置いたマグカップを手に取り、千尋に渡す。

『まだ熱いから気をつけろよ?』

そっとこぼれないように渡してやると、直ぐに飲むのかと思ったのに、千尋はマグカップを持ったまま固まってしまった。

『どうした?気分悪いか?』

「そう、じゃなくて…」

甘ったるい香りに当てられたのかと思って聞いてみるが、そうではないようだ。

しかし、じっとマグカップの中を見つめて黙ったま飲もうとしない。

どうしたのだろうと疑問に思っていると、少し恥ずかしそうに顔を俯かせた。

「あ、あのさ…」

『ん?』

「これ、熱いんだよね…?」

『さっき作ったばっかだからな』

熱いのかと聞いてくるんだから、たぶん猫舌なのだろう。

そんな事を思っていた俺の考えは甘かった。

「熱いの嫌だから…浩ちゃんが、ふぅふぅってして…く、口移しで、飲ませてよ…」

『はぃ!?!?』

いきなり何て事を言ってくれるんだろうかこいつは。

まさかの発言に驚きと戸惑いで目を見開いてしまう。

そんな俺の様子をじっと見られて恥ずかしくなり、顔ごと視線を逸らした。

ただ息を吹きかけて冷ましてやるだけならまだいい。

"口移し"で飲ませてくれとか、熱の所為でおかしくなっているんだろうか。

ただでさえ潤んでいる瞳や汗の滲む首筋なんかに欲情してしまいそうになっているのに。

もしそんな事したら、きっと俺は止まらなくなる。

でも、風邪は人に移せば治るってよくいうよな?

だったら口移しで飲ませてやれば俺に移るか?

俺の頭の中で、そんな下心丸出しな考えをぐるぐると巡らせていると、不意に洋服の裾を引っ張られ、どうしたのかと逸らしていた顔を千尋に向ける。

「ねぇ、ダメ?」

『っ!?』

潤んだ瞳で上目遣いなんてされたら――

「こうちゃん…?」

千尋がソレを望んでいるんだから、もう下心丸出しでも関係ない。

俺は千尋からマグカップをとると、少しだけ口に含み千尋の顎を片手で引き寄せる。

大人しく俺に従い、顔を近づけると千尋はそっと目を瞑った。

「…っん……」

重ねた千尋の唇は柔らかくて、熱の所為で熱い。

唇の隙間から漏れないように、ゆっくりと口に含んだ液体を千尋に流し込んでいく。

「…んん…ンッ」

少しずつ流し込んだものを飲み込む時に小さく喉が鳴る音が聞こえる。

キスという行為と、喉が鳴るその音が俺を煽る。

口に含んでいたものが無くなっても俺は唇を離さなかった。

「…ふぅ……ン…」

『…ん……はぁ…』

唇の隙間からもれる二人の吐息だけが静かな部屋に響く。

「はぁ…っぁ…んン…」

何度も角度を変えてキスを繰り返す。

酸欠なのか、それともキスの所為なのか、まるで靄がかかったようになってきた。

少し目を開いてみると、千尋も苦しそうだ。

まだ続けていたかったが、病人に無理をさせる事もできない。

ほんの少し残っていた理性が働き、そっと唇を離そうとすると千尋の腕が首に絡みついてきた。

『千尋…?』

「まだ離れちゃ、ヤダ…」

せっかく人が体を心配して、ほんの少し残っていた理性で衝動を抑えようとしていたのに。

もう止めてやる事なんて出来ない。

『まったく、どうなっても知らないぞ?』

「ん…いいよ…」

俺は何度も何度もキスをした後、千尋と体を重ねた。




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「うぅ…」

『だ、大丈夫か…?』

二人とも欲を放ち後処理をした後、千尋はベッドでぐったりとしてしまった。

「あんなに、激しいとは思わなかった…」

『千尋が可愛すぎて、つい…ごめんな?』

本当に無理をさせてしまった事に申し訳ないと思う。

優しく頭を撫でてやると、責めるような目つきで俺を睨んできた。

「腰が痛いよぉ…浩ちゃんの所為だからね!」

『だからごめんって』

頬を膨らませて怒って見せるが、やっぱりそんな千尋も可愛い。

もっと色々な表情が見たくて、少し意地悪を言ってみる。

『でもさ』

「何…」

自然と顔がニヤけたのが自分でもわかった。

『本はと言えば誘ってきたのは千尋だろ?』

「っ!?」

俺に言われた事が恥ずかしかったのか、千尋は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。

『口移しでなんて言うし、しまいには離れちゃヤダとか可愛い事言うから』

「う、うるさいな!」

布団を顔まで掛けて隠れてしまった千尋の背中をぽんぽんと叩いて落ち着かせる。

『でも、俺は嬉しかった』

「…」

俺は布団に隠れたままの千尋の背中を叩きながら話を続けた。

『バレンタインに他の誰からもらった物より嬉しいモノもらったしな』

「……嬉しいもの?」

少しだけ顔を出して俺の顔を見る千尋の頭を撫でてから、額にキスをする。

『俺はバレンタインに、お前をもらったよ』

「ば、バカ!!」

言われた事が恥ずかしかったのか、せっかく出した顔をまた布団で隠してしまった。

しかし、少しもしないうちに今度は顔全体を出し、手で口元を押さえている。

『どうした?』

「は、鼻血…」

『ぷっ!』

もう可愛すぎだろ。

『笑うな!』

「鼻血って…ぷはっ」

『ちょ、チョコ食べ過ぎただけだもん!!』

顔を真っ赤にして俯いている千尋にティッシュをわたしてやる。

"チョコの食べすぎ"

そんなのは見え透いた嘘―

可愛くて、愛おしくて―

俺はティッシュで鼻を押さえている千尋の顎に手を当て顔を向かせキスをした。

何度も何度も角度を変えては繰り返す。

―チョコレートみたいに甘いキスを―


END

女装娘×NH×NAVI☆

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